Facebookの衰退とソーシャルグラフの陳腐化

2022年2月のMetaの決算で2021年第4四半期にFacebookのユーザー数が初めて減少したことが分かった。
 
周りを見ていてもFacebookを利用しているユーザーは明らかに減少していると感じている。特に自分と近い世代でアクティブに利用しているユーザーはほぼ見ることがなく、アクティブに投稿しているのは30代後半〜くらいの印象がある。
なぜ、Facebookのユーザー数が減少しているのか、そして若者のSNS→おじさんのSNSになっているのかの考えをまとめる。

Facebookの設計

Facebookのミッションの変遷は下記のとおりである。
  • ~2017年までのミッションは「making the world more open and connected(世界をよりオープンにし、つなげる)」
  • ~2022年までのミッションは「give people the power to build community and bring the world closer together(人々にコミュニティ構築の力を提供し、世界のつながりを密にする)」
ミッションからも分かる通り、Facebookは人と人を繋げることを強く意識しているサービスである。
 
人と人を、1人の人間として繋げることを意識しているため、1人1アカウントで実名を基本としてアカウントを作ることになる。
そして、TwitterやInstagramのようなフォロー / フォロワーではなく、相手に対して友達のリクエストを送り承認されることで繋がることができ、相手の投稿の閲覧 / コメント等ができるようになる。
フォロー / フォロワーの場合、簡単にフォローを外したりすることができるが、友達となった場合は簡単にはつながりを解除することができない。それは実名の一人の人間として、相手の承認を持って友だちになるという、深く繋がることを意図して設計されているからだろう。
リアルの世界においても、一度関係値を持った人との関係を簡単には切ることができないのと同じである。
Facebookや他のSNSがない時代においては、一度出会った人とその後も繋がり続けるにはその手段が乏しかったことを考えると、リアルの世界で一度出会った人と、その後もデジタル上で繋がり続けることができるというのは、むしろ良いことであるとも思う。
 
では、なぜ、そのデジタル上で繋がり続けることができるプラットフォームであるFacebookが衰退しているのか。鍵は「ソーシャルグラフ」だと考える。

ソーシャルグラフの陳腐化

ソーシャルグラフとは、簡単に言うとインターネット上における人と人のつながりを表したものだ。
高校の友達、バイト先の先輩、会社の同僚…など様々な人とFacebook上で繋がることで、その人のソーシャルグラフは広がっていく。
現実での人との出会い・繋がりをリアルグラフとすると、それをソーシャル上に置き換えたものである。
 
Facebookが衰退している理由として、このソーシャルグラフが積み上がりはすれど、更新はさらない(=陳腐化していく)ことだと考えている。
 
現実の世界では、時の流れに合わせて、人との繋がりは更新されていく。
大学に入学すれば、高校の友達とは自然と会う機会は減り、大学の友達と遊ぶことが多くなる。
社会人になれば、学生の時の友達と合う機会は減り、仕事関係の繋がりが多くなる。
そうして、リアルグラフはその時代に応じて更新されていくが、Facebookで繋がったソーシャルグラフは更新がされない。その人の人生において1度繋がった人とは繋がり続ける。

発信しづらいSNS化

SNSにおいて、コンテンツは命である。ユーザーがコンテンツを発信してくれないことにはSNSは発展しない。
ところが、ソーシャルグラフが陳腐化すると、ユーザーはコンテンツを発信しづらくなる。
 
理由は簡単だ。
高校の友だち / 大学の友達 / 会社の同僚 / 仕事で出会った人…それぞれの人に対して発信したい内容は異なるからだ。
高校の友達と遊んでいる内容は仕事関係の人に見てほしいわけではない。
現実世界で考えてみるとわかりやすい。高校の友だちと話す内容と、会社の同僚と話す内容は全然違うはずだ。それなのに、Facebook上では過去につながった人全員に向けて発信することになる。投稿しづらくなるのが分かるだろう。
 
また、閲覧する側にとっても同様のことが言える。高校の友だちは、仕事関係者向けに発信されたコンテンツに対しては興味は沸かないし、逆も同様だ。
コンテンツに対しての興味が沸かないため、そのコンテンツに対してのエンゲージメントも下がる。
 
そうすると何が起きるか、どの時代に繋がった人に対しても共通で届けたい内容に投稿の内容が限られていく。
例えば、就職・転職・結婚などライフイベントにおいて、重要度が高いものがそれに当てはまる。
実際に同世代のFacebookの投稿は、基本的に上記の内容になっており、年に1回でもポストがあればいい方だ。
 
こうしてFacebookは、更新頻度が低い / 自分が求めるコンテンツに出会う確率が低いSNSとなり、衰退していると考える。
(※求めるコンテンツに出会いやすいように、タイムラインをユーザーごとに最適化しているが、それでも発信が減ればユーザーが本当に求めるコンテンツと出会う確率は下がる。)

なぜ、中高年層はFacebookをアクティブに使うのか

ソーシャルグラフが陳腐化することで、Facebookは衰退していると書いたが、未だに中高年層はアクティブに活用しているユーザーが多い印象である。
その理由も現実世界を踏まえて考えてみると、よく分かる。
 
若い時は、学年が上がる、中学を卒業して高校に入学する、働き始めるなど、現実世界での人との繋がりは数年単位で激しく変化する。
他方で、中高年層は、現実世界での人との繋がりが変わるイベントが少ない。もちろん、転職やプライベートでの新しい出会いなどはあるかもしれないが、若い時と比較すると全員に共通で発生するイベントは圧倒的に少ない。
 
そのため、若い世代は必然的にソーシャルグラフが陳腐化していくが、サービスの利用タイミングで既に中高年層だった場合、ソーシャルグラフが陳腐化するという問題が発生しにくい構造になっている。
だからこそ、若い世代はFacebookから離脱するが、中高年層は未だにFacebookを使い続け、そうしておじさんのSNSという印象が付いていく。
そして、おじさんのSNSとしての印象が付いた場所には、若い世代はそもそも入ってこない。
 
一時代を築いた巨大SNS「Facebook」の衰退。他にも理由はあるとは思うが「ソーシャルグラフの陳腐化」が大きな理由の1つだと考える。